工藤家年々秘録

工藤九郎左衛門尉祐長者数代若州之武田家ニ奉仕。信広公御家督御相続之儀ニ付、有故而長臣中、与佐々木三郎兵衛尉源繁網并祐長評議之上宝徳三辛未年春三月廿八日之夜、密君公若州之御屋形御退去之節、祐長并繁網外ニ御家士三人供奉野州足利江御越、享徳元壬申年春三月奥州田名部江御越、蠣崎江御築城住せ給ふ。同三年甲戌年秋八月廿八日君公伊駒安東太政季朝臣与御談合ニ而大畑御出帆、夷国江御渡海、上国華沢城ニ住せ給ふ。抑祐長始外四人供奉〈此時相原周防守源政胤・河野加賀守越知政道も渡海〉

一　工藤九郎左衛門尉祐長文明二庚寅年年秋八月廿日卒。法諱仁徳院殿興国隆斎禅定門。
一　工藤九郎兵衛尉祐政文亀元乙丑年秋八月九日卒。法諱祐政院殿寛良豊皓禅定門。
一　工藤九郎左衛門尉光祐者光広公・義広公永正十一甲戌年春三月三日小舟百八拾余艘ニ被召上国より（一字で「より」と読む例のアレ）大館城江御移住光祐供奉。大永五乙酉年秋七月廿六日卒。法諱龍岳院殿瑞雲寛起禅定門。
一　工藤九郎左衛門尉祐兼享禄二己丑年春夷酋長タナサカシ与合戦の時討死。法諱勇釼院殿忠山義川禅定門。
一　享禄二己丑年蝦夷酋長タナサカシ為征討工藤九兵衛祐致発向之節不慮ニ食物乏く有合蕨を食し後勝利を得たるを吉兆として往古よ里用来家紋伊保利ニ木瓜を五ツ蕨手の内へ木瓜と改候様従義広公蒙上意。

一　工藤九兵衛祐致弘治三丁巳年春三月十三日卒。法諱武嶽院殿治教永勲禅定門。
一　工藤八郎右衛門義祐天正十九年辛卯年秋七月廿一日卒。法諱清閑寺殿曜晃宗範禅定門。一ニ禅定門作禅菴主。
一　当家幕紋往古よ里（り）伊保利ニ木瓜之処、享禄二己丑年五ツ王（わ）らひ手の内へ木瓜ニ改め此外衣類等にハ二重井桁のうちへ水色の紋をも用ゆ。

一　一書に御先代於京都秋九月日卒と有之候得とも京都は何れの地誰を葬る候哉未詳。
一　松前東部シコツの内〈後千年川と改〉マコマヘと申交易場所御預賜事年月未詳。
一　当家若州よ里持伝累代の諸書物并武器等宝（寛）永廿一年甲申年春三月廿一日蔵町より出火、烈風ニ而袋町中川原町中町大松前町浜町通一円焼失ニ付及類焼。尤系譜与甲冑壱領残〈此時大松前町南側住居〉。
一　工藤瀬兵衛〈後八郎右衛門号祐昌〉正保二乙酉年秋八月九日卒。法諱勝興院括公羽道栄禅定門。松前花遊山龍雲院へ葬。
一　工藤八郎右衛門祐網（綱カ）万治三庚子年秋七月十四日於江府卒。法諱祐網院用嶽当照居士。同所諏訪山吉祥寺江葬。

一　工藤瀬兵衛網義（綱義カ）〈初網吉〉寛文十一辛戌年秋七月廿日卒。法諱義岳院一誉元心居士花遊山龍雲院江葬。

一　天和三癸亥年夏閏五月十九日東部ニイカツフ交易場所を工藤瀬兵衛祐義江御預賜〈ニイカツフ古名ヒホク与唱〉

（天和四壬戌年〈貞享ト改元〉此節黄鷹塒場知行所東部ニイカツフ西部トママイ■壱ヶ所宛有之。当主工藤瀬兵衛祐義年三十八）

一　元禄二己巳年西部トママイ交易場所工藤瀬兵衛祐義江御預賜〈但先年より此商場領来候処此度御改被下之〉

（十二月廿六日江戸着、御使ニ被仰下）

（元禄三庚午年正月二日工藤瀬兵衛江府御城へ登り御太刀馬代ニ而御名代相勤）

（元禄三庚午年三月朔日小使利左ヱ門与申者家より出火有之。工藤瀬兵衛宅類焼ニ付御手当被下之。此節之居屋敷表口六県裏行浜町迄地所ハ大松前町南側なり）

一　元禄三庚午年夏四月十五日工藤瀬兵衛祐義江府よ里松前へ帰着〈祐義明年より致出府候御用向者羽州御請米御願ニ付而事なり。此御用済候而も御姫様御後帰国可仕旨年始御使之節祐義被仰下来正月公儀江年始御名代御使者相勤候様被仰下〉

一　同年秋七月十一日松前法幢寺住持迀化ニ付為御香奠銀三枚被遣之。工藤瀬兵衛御使相勤。

一　同年冬十月五日前同寺後住始而御目見并入院為祝小判弐両被遣之。工藤瀬兵衛御使相勤。

一　同年同月廿八日工藤瀬兵衛弟与惣治義・因藤与次右衛門養子ニ仕度願書双方より差上候依願通被仰出。

一　同年冬十二月十八日手代木左内拷問ニ付新井田嘉助寿和・工藤瀬兵衛検使被仰付相勤。

一　同年同月工藤瀬兵衛上国川奉行相勤候。為勤料御目録拝賜之〈同勤新井田嘉助・田中平兵衛へも同拝賜〉

一　元禄四辛未年春三月廿三日吉岡流剣術師範工藤瀬兵衛被仰付〈相師明石文左衛門尚政〉

一　同年同月廿六日工藤瀬兵衛檜山奉行被仰付。

一　同年夏四月十三日檜山へ発足（足と読めるが、自信がない）

一　同年秋七月七日工藤瀬兵衛御相伴仰付〈新井田嘉助同様被仰付〉

一　同年同月十五日工藤瀬兵衛桧山より帰着。

一　同年同月廿三日工藤瀬兵衛義　御参府御供被仰付。

一　同年同月廿八日工藤瀬兵衛へ支度料金弐両被下遣。清涼院様より金三百疋膃肭臍壱、奥方様より昆布弐把膃肭臍、お伊◆（読めない。原稿用紙に翻刻されたものなのにｗ）より膃肭臍壱被下之。

一　同年秋閏八月十二日工藤瀬兵衛桧山奉行勤料御米拾俵拝領。

一　同年秋九月四日為御参府君公御出帆。工藤瀬兵衛供奉冬十月　日江戸御着。

一　元禄五壬申年春三月四日君公御帰国。工藤瀬兵衛供奉。

一　同年冬十二月廿三日兼而御部屋お多満殿より工藤瀬兵衛江御内々御頼有之候。元酢屋伊右衛門〈北川氏之祖〉末男又八儀お多満殿跡式ニ成度御内存ニ候之間、御奉公為仕度旨町奉行中を願上候処、来春可被召出段被仰出〈後岡左衛門と称〉

一　元禄六癸酉年春　月　日北川伊右衛門三男又八儀兼而願通御奉公被仰付。

一　元禄七甲戌年春二月十五日工藤瀬兵衛兼而願通蔵地弐間ニ三間之地被下置旨、被仰出。同廿二日地所御引渡被成下。

一　同年秋七月廿一日工藤瀬兵衛儀御参府御供被仰付〈同時御家老并新井田主計・下国七郎兵衛・新井田嘉助御供被仰付館畧〉

一　同年秋九月六日御参府御出帆ニ付工藤瀬兵衛供奉。

一　元禄八乙亥年春二月廿八日昼四ツ時、殿様御機嫌能御帰城。工藤瀬兵衛供奉ニ而帰着。

一　同年春三月廿八日工藤瀬兵衛居屋敷手狭ニ而増地奉願候依裏道壱間通被下置。

一　同年秋七月朔日毎度之通工藤瀬兵衛へ帷子料金被下置〈同時新井田嘉助姑御小性方へも被下之〉

一　同年秋九月五日兼而御沙汰ニ付工藤瀬兵衛宅江御成可被成下哉之旨伺上候所、来春御成被成下候様被仰出。

一　同年冬十一月十五日工藤瀬兵衛儀江府江年始御使者被仰付。同十六日被召出支度料金三両御小袖并麻御上下被下置。同廿二日松前出帆〈此年羽州ニおゐて公儀へ御払米始而被成御願候三千俵御受米被仰出。翌年瀬兵衛江戸より帰路酒田ニ而其向々へ懸合〉